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【1分で読める】書籍『理科系の作文技術』に学ぶ、言語化の定石。

『理科系の作文技術』という本をご存じだろうか。1981年に出版され、いまも最強と名高い文章読本だ。「古典的名著」とも呼ばれる位置づけのその本には、文章の書き方だけではなく言語化のコツも書いてある。

書籍の中で「定石」と述べられているそれは、現代でも十分に通用するいい方法だ。

書くべきポイントを示し,また考えるべき項目を示唆する”定石”がいくつかある.たとえば,

それが「どんなものか」を記述するときには,まずそれに似たものを探せ.次に,似たものとそれとはどこが違うかを考えよ.

とか

出典:木下 是雄『理科系の作文技術』P27

 

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先週みた映画がとてもおもしろかったとする。映画好きのあなたは「ここ数年で一番の作品だ!」と思った。けれど、それを言語化しようとすると難しい。

「爆発シーンが印象的だった」とか、「俳優のアクションがすごかった」とか、「ストーリーがよくできていた」とか───そうやってひとつひとつあげて、ダラダラ説明をしても仕方がない。

また、感じたことだけを並べても感動を共有することにはならない。そのうち自分でも、「いや、もっとおもしろかったんだけど、あんまり伝わってないなこれ」と、もどかしくなる。

 

そういうときは、「似たものを探せ」ばよい。

それを端的にいうのも、ポイントだ。

「ドラゴンボールの天下一武道会、あれくらい興奮したわ」や、「はじめて FF7 をプレイしたときの感動レベルだった」だけで伝わることもある。「最高だったわ。ひさびさに SSR 引いたわ」などと、シンプルに作品の価値をあらわしてもいいだろう。

「まるで〇〇のようだった」と例えるのが、言語化のコツになる。

 

例えのうまさ、基準はふたつだろう。①関連性と、②汎用性だ。

①関連性

「似ている度合い」が高いほど伝わりやすい。

「欲しかったゲームが目の前で売り切れた」というガッカリ感情を、「傘わすれたときにかぎって雨が降ってくる」などといってもピンと来ない。状況が違うからだ。

「傘わすれたときにかぎって雨が降ってくる」というのは、確かにガッカリはするが、「避けられたはずの失敗に、自分のミスでハマってしまった悔しさ」のほうだろう。これを言語化するには、状況である「直前で売り切れた」「期待していたものが手に入らなかった」にマッチさせたい。

 

また、ゲームの話をしているのに「雨」とか「傘」とかいわれても急にどうしたとなる。「100連ガチャを全部はずした虚しさ」のほうが近いかもしれない。映画の話をしているのに漫画やゲームに例えるのは精進がたりない。

 

②汎用性

多くのひとが実感しやすいほど伝わりやすい。

実感しやすいとはどういうことか。まずは簡単にイメージができることだろう。「傘わすれたのに雨降ってきて駅から出られなくなった」とか、「終わったあとにトイレットペーパーが切れてることに気が付いて詰んだ」とかは、状況のイメージがしやすい。

それがじっさいに経験したことのある例えだともっとよい。微妙にムズムズモヤモヤする気持ちを「耳がかゆいのに綿棒が見つからないときのイーー!って感じ」とか、「風呂上がりの牛乳が切れててたときの、あのムズムズ感」といったような感じだ。

 

そのいっぽうで、「分かるひとにだけ伝わればいい」使い方も効果的だろう。

運動会の部活対抗リレーなんかで「おいおい、スマブラかよ」とツッコめば「オールスター感」がうまく伝わる。モテ期に入った友人に「それなんてゲーム?ゆずソフトかよ」というと、「そんなイージーじゃねぇわ」と大ウケするだろう。

こうした例えは範囲が狭いぶんだけパワーがあると思う。「絶妙なニュアンス」が分かるひとにはぶっ刺さるからだ。「誰が分かるねん(笑)」みたいなツッコミを貰えたらうれしい。おもしろがってくれたならしめたものだ。

 

そういうことをスッと言えると、「あの人は言語化がうまい」と言われるようになる。

 

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この「似たものを探」す能力は、訓練で伸ばすことができそうだ。

ふだんから、なにかに例える訓練をしておけば、自然にレパートリーも増えるし、似たようなものをひっぱりだしてくるコツもつかめる。べつにそれを誰かに伝える必要もない。「ああ、これはあれに似ているな」というアンテナを張って、こころに留めておけばよい。

 

それが簡単ではないところもいい。

そもそものインプットがなければ例えなんて出てこない。例え話がうまいということは、その分だけ経験をしないといけないし、ものを知らないといけない。なにかに興味をもって取り組むことが必要となる。やりがいがある。

 

経験が必要ということは、もしかしたら、なにもしなくても言語化はうまくなるのかもしれない。だって、おとなになるにつれ、経験は増えていくものだから。けれど、のほほんと過ごしているだけでは非常にゆるやかにしか伸びていかない、私はそう思っている。

やはり訓練が必要なのだ。

 

以上。

 

 

参考書籍

木下 是雄『理科系の作文技術』中公新書(1981年)

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